客先で働き始めて早1週間。
ここにはトイレが2部屋しかなかった。
ある日、ふと尿意を覚え女子トイレに向かうと、化粧台に女の人が1人、手を洗っていた。
別に話しかけるわけでもなく、そのまま便器のある個室へと向かう。
手前にある便器の中身が流されていなかった。
明らかに中の水が黄色かった。紙も浮いていた。
うわっ、見てはいけないものを見てしまったよ。
最初の個室は華麗にヌルーして、奥にある個室へと入る。
普通だった。良かった。
便器に座って出すものも出し、トイレに入った時に化粧台にいた女の人のことを考えふと思う。
――このことは誰にも言うまい
…と。
私が誰かに言いふらしてしまうと、あの女の人があまりにも可哀想ではないか。
自分の中だけの、ちょっとした珍事件で済まそうじゃないか。
しかし、ぱんつを元に戻しつつ、水を流し、外に出ようとノブに手をかけた瞬間、
私 は あ る こ と に
気 付 い て し ま っ た 。
もし手を洗ってる最中、誰かが来てしまったらどうしよう。
私、個室を出る。
↓
化粧台で手を洗う。
↓
洗ってる最中に人が来る。
↓
来た人、手前の個室に入ろうとし、
便器の中になみなみと注がれたリンゴジュースを発見する。
↓
来た人、あたりを見渡す。
来たばっかりのオレ関係ねーじゃん、トイレの中には手を洗っているコイツしかいねぇw犯人じゃんバロスwwwきめぇwwwww
コレはポクの死亡フラグではないか!!?
トイレの中で誰かに姿を見られたら終わりじゃないか!?
ちょっと奥の個室に篭り、脳内会議を開いた。
Q.手を洗わないで素早く外に出てしまえばよくね?
A.不衛生だからやだ。
Q.別に自分がやったわけじゃないんだから、平気だろ?
手前のトイレが使えなかったから奥のトイレで用を足したと理屈は立つし。
A.貴様、自分が最初にトイレに入った時の情況を考えろ。
化粧台に女がいたな?おまえ、まずそいつのこと疑っただろ。
その女の立場が、そっくりそのままこれからのお前に重なるんだよ常考。
Q.では誰かが来るまでひたすら奥の個室に篭っていたらどうか?
A.俺は確率で物事を決めたくねぇんだ!!というか待つの嫌い。
カッ!
その時、脳裏に閃光が走った。
『イマダハヤクシル』お告げが聞こえたような気がした。
勘か、神の囁きか。
私は素早くノブを回し外に出て、素早く手を洗い、素早くトイレを後にした。
幸い、誰も来なかった。
私は遂に、トイレという閉鎖された密室から脱出できたのだ。
<完>
今考えれば、便器の水流してあげればその後の手洗いとかゆっくり出来たのにねー。
そこまで頭が回らなかったんですねー。